ここで(大淀川の小さな港で)、伊耶那岐が左目を洗ったら「天照大御神」が、 右目を洗うと「月読の命」、鼻を洗うと「建速須佐之男(たけはやすさのを)の命」が成った。(*注25) この時、伊耶那岐は大層喜んで 「いや〜、俺様もここで子供たくさん生み続けたけど、最後の最後にむっちゃ出来の良い奴らが 生まれたなぁ〜やるじゃん、俺!すげぇ、すげぇ〜♪」 と言い、速攻親バカ全開である。早速、伊耶那岐はそのチリチリといい音をたてて揺れる、 勾玉の首飾りをはずして 「う〜ん、お前が高天原(太陽と天空)を治めろな」と天照大神にかけてやった。(*注26) その勾玉は「御倉板挙(みくらたな)の神」といったらしい。 また、月読には「お前はね、夜の世界を治めるんだぞ」と言い、最後の須佐之男には 「お前は〜・・・そーだ、海を治めてくれや」と3神、それぞれに治めるべき世界を定めた。 |
そんでもって、一応それぞれが伊耶那岐に言われた通りにそれぞれの世界を治めていた。 が、何処にでも言うことを聞かない子供はいるもんで、須佐之男はその鬚(あごひげ)が 胸に届くまでになっても、海原を治めるでもなく泣きわめき続けている。 もう、その泣き声ったらすごくて山の木々は枯れ、海原の水は干上がってしまう程だ。(*注27) このために、悪神たちがブイブイとハエの羽音みたいな不気味でイヤ〜な感じの音をたてつつ 世界中に増えていき、ありとあらゆる、万(よろず)の物の怪が産まれ満ちてしまった。 で、そんな状況に黙ってるわけにもいかず、伊耶那岐は須佐之男を呼んで説教した。 「お前ってば、海原統治もほっぽらかして何をそんなに泣きわめいて迷惑かけてんだぁ〜?えー??」 「て、てやんでぇ!オレ様は根の国(=黄泉)にいるカーチャンに会いてぇんだよぉ〜〜オイオイ でも、会いにいけねーから泣いてんでぇ〜! 」 もーそれを聞いた伊耶那岐は無茶苦茶怒って、ブチッと切れた 。 「そうかよ、だったらお前はもうこの世界に住まうな!逝ってしまえ!!」 とブッチギリで須佐之男を追放してしまった。こののち「もう人生に疲れました」なのか 伊耶那岐は淡海の多賀に鎮座し、表舞台には出てこくなったそうだ。(*注28) 須佐之男はとりあえず、黄泉の国へ行く前に天照大神の姉貴へ挨拶してからにすっか!と 高天原へ挨拶に向かった。須佐之男が高天原へ向かい登っていくと、 山河はすっかり濁流となりゴウゴウと動いているようで、大地も共鳴するかのように振動する。 天照大神はその音を聞きビックリし、(*注29) 「バカ弟の須佐之男が、このアタクシの高天原へやって来るのは忠誠心なんかじゃないワ! きっとアタクシの高天原を奪い取りに来たに違いないザンス!!」と考えた。 そしてすぐさま結っていた髪を解いて、男装のみづら(角髪)に巻いて鎧やら前には 重たくないのかってぐらい勾玉の飾りをジャラジャラと500個、背中にはお〜きな弓入れを背負い、 脇腹には強い弓当てとを帯びて、随分と勇ましい格好で須佐之男を待ちかまえた。(*注30) 「来たワネ、このバカ弟!あーた、どういうつもりでここへやって来たザンスか?!」 「なんでぇ、邪心あってやってきたんじゃねぇや!伊耶那岐のオヤジがよ、オレ様が 泣きわめいている事ばかりを言いやがるからよ、てやんでぇオレ様はカーチャンに 会いてぇだけでぇ!と言ったんだがよ、あのスットコドッコイオヤジめ、オレ様に 中津国に住んじゃなんねぇとかぬかしやがって、追んだされちまってぃ! でよ、カーチャンの所へいくめぇにアネキにその辺の話ししとこうかと思ったんでぇ。 ただ、そんだけで悪さなんてしねぇよ。」 「フフンだ、さてそんな事言った所で…それならあーたの心のケッパクは、 どう示してもらえるのカシラ?!」 「そんなに言うんなら、いっちょ互いに誓約(うけひ)してよ、(*注31)ガキこさえようじゃねぇか。 女が生まれたら、俺に邪心は無いって証拠だぜ、ベラボウメ!」 こうして天照大神がまず須佐之男の帯びている十拳劔(とつかつるぎ)を受けとって、 3つにエイヤ!と打ち折った。それを高天原の聖井ですすぎ、それを口でさらに噛み砕き ふぅ〜っと息を吐き出すと「タギリ」「イチキシマ」「タキツ」という3女神が生まれた。(*注32) |